坂本龍馬は幸せだった?

龍馬のエピソード(作り話の可能性が高いが)で,彼の変わり身の早さ,臨機応変を示すものとして,短い刀,ピストル,万国公法へと懐の持ち物が変わったエピソードがある。不平等条約を結び,列国との不利な関係の中で近代日本をはじめていくとき,万国公法という国際秩序によって国際関係づくりをしていけば,近代日本も良い方法に進んでいけるという考えだったのだろう。
 しかし,実際にはそんな約束事なんて,大国の力関係の中で簡単にくずされてしまうものだったことに気がついたのは,龍馬の死後のことで,廃藩置県を成功させて明治政府の人びとが欧米を視察に行ったときのことである。統一をしたばかりのドイツ連邦では,宰相ビスマルクから万国公法が軍事力のある国家同士の秩序であり,軍事力も経済力もない国家に通用する法理ではないことを教えられたそうだ。つまり,日本の進むべき道は万国公法をたてにするのではなく,富国強兵によって万国公法の秩序に入る国づくりだった。
 だから万国公法を近代日本のよりどころと考えた龍馬は,現実を知らなかったわけで,それはそれで幸せだったのかと思う。
 社会にもさまざまな決まりや約束事があるのに,実際はそれによって動いていなくて,人と人のウェットな関係の中で物事が決まることが,自分が思っているよりすごく多かったことに気がついてこんなことを書いてみた。
 しかし,これを書くのに時間をかけるヒマがあるのは幸せなことで…