『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

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『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』新井紀子東洋経済新報社

 今週,新井紀子さんの講演を聴きました。それを深めるためにずっと読みたいと思っていた『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を購入しました。


 最近,教育に関する研修を受けると必ず前置きとして話題になるのが,オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が同大学のカール・ベネディクト・フライ研究員とともに著した『雇用の未来?コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文の,あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」の話です。社会の急速な変化に対応する力を育むためには,教育が変わらなければいけないと。

 

 著者は現在のAI技術は万能ではなく数学の公式に置き換えられることしかできないから,AIが人間の脳を凌駕しAI自身が自らを超えるAIを作る世の中が来ることは今の状況ではないとし,現在のAI技術の限界を指摘しています。しかし,人間がAIに超えられることはないから安心してというのではありません。現在のAI技術が克服できないのは,言葉の意味を理解する力だそうです。文字で書いていることを理解するのは簡単なように思えますが,例えば「山口と広島へ行った。」という文は,山口を場所ととらえるか,人物名ととらえるかで意味が違ってきます。話の流れの中で私たちは簡単に理解できることでも,AIに理解させるのは難しいそうです。ですから,AIに仕事を奪われたとしても,AIにできないことを人間の仕事とすれば問題ないはずです。

 

 しかし,日本の中高生の多くは,中学校の教科書の文章を正確に理解できません。そのため子どもたちができる仕事はAIに奪われてしまい,職はあっても能力がないために就職することができないのです。教科書が読めないなんて信じられないと思うかもしれませんが,リーディングスキルテストという読解力を測る調査によって,子どもたちの大部分の読解力はAIに代替可能な程度の能力だったそうです。

 

 文部科学省は,新しい学習指導要領から社会の変化に対応するために育む力のひとつとして,「学びを社会に生かそうとする学びに向かう力」をあげいます。しかし,教科書を自分で読むことができないとなると「学びに向かう」ためには,まず教科書を自分で読み理解する力を身につけさせることこそが「学びに向かう力」ではないかとも思えます。そういう意味もあってか,著者はAL(アクティブラーニング)を重視する新しい学習指導要領には否定的です。

 

 AIができる仕事は増え,読解力の低い人間は,AIによって仕事が奪われてしまうことは確実です。では,子どもたちが読解力を高めるにはどうしたらよいのか。それには,子どもたちがどの段階でつまづいているのかを正確に把握し,対処の仕方を考えなければいけないとしています。何にでも効果のある処方箋は見つかっていない状況のようです。

 

 私もいくつか読解力不足という意味で実感していることがあるので,対処法を試行錯誤してみようと思います。